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妻の100万円の願いは拒否、初恋相手には5000万円⁉ 離婚後の天才妻は御曹司に溺愛される
妻の100万円の願いは拒否、初恋相手には5000万円⁉ 離婚後の天才妻は御曹司に溺愛される
Autor: 相沢蒼依

第一章 記念日のプレゼント

Autor: 相沢蒼依
last update Fecha de publicación: 2026-08-14 11:54:41

 結婚三周年まで、あと一か月。その日を思うだけで、胸の奥が少しくすぐったくなる。

 宮坂澪は勤務先の研究所で時計を見上げ、小さく息を吐いた。

「よし」

 今日は、午後から半休を取っている。仕事を早めに切り上げ、更衣室で白衣を脱いで、大切にしまっていた紙袋をロッカーから取り出した。

 中には、淡いアイボリーのワンピース。三周年の記念写真を撮るために、何度も店を巡って選んだ一着だった。

 派手ではない。けれど、裾に咲く小さなレースの花が可愛らしくて、鏡の前で袖を通したとき、「これなら智也さんも喜んでくれるかな」と自然に笑みがこぼれた。

(──きっと、似合うって言ってくれるはず)

 三年前、学生時代から付き合っていた御子柴智也と結婚した。起業したばかりの智也は、休みらしい休みもないほど忙しかった。それでも、記念日だけは決して忘れない人だった。

 一年目の結婚記念日には、大きな花束を抱えて帰ってきた。

「こんなの買ったことないから、店員さんに全部選んでもらった」

 照れくさそうに笑う智也が、少しだけ可愛かった。

 二年目は、仕事帰りに人気店のケーキを買ってきてくれた。

 普段も帰宅が遅くなる日は必ず連絡をくれたし、どんなに疲れていても澪の職場まで迎えに来てくれた。

 派手な愛情表現をする人ではない。それでも、ちょっとした気遣いの一つひとつが嬉しかった。だから澪は、自分は大切にされているのだと信じて疑わなかった。 

(ふふっ、ワンピース姿を見せたら、智也さんはどんな顔をするだろう?)

 今年は自分が少し驚かせてあげようと、ささやかな計画を立てていた。照れくさそうに笑うだろうか。それとも「似合ってる」と素直に褒めてくれるだろうか。

 そんな想像をするだけで、自然と帰りの足取りが軽くなる。

 研究所を出る頃には、夏の日差しが少しだけ傾き始めていた。途中で花屋に寄り、リビングへ飾る小さなブーケを買う。

 夕食の材料も少しだけ奮発した。今日は智也も早く帰れると言っていた。せっかくだから、彼の好きなビーフシチューを作ろう。

 信号待ちの間、スマートフォンを取り出す。画面には、昨夜届いた智也からのメッセージが残っていた。

『最近忙しくてごめん。記念日はちゃんと空けてある』

 その一文を読み返すだけで、疲れが少し軽くなる。

 忙しい人だ。それでも約束を忘れないところが、澪は好きだった。

 マンションに着くと、エレベーターの鏡に映る自分を見て髪を整える。今日、ワンピースを着るわけではない。それでも、帰宅した智也に紙袋を見せながら、「実はね」と笑ってみせる自分を想像してしまう。

(――きっと驚くだろうな)

 その反応を見るのが楽しみだった。

 胸を弾ませながら、玄関の鍵を静かに差し込む。中に入ると、リビングから誰かと話す智也の声が聞こえてきた。どうやら電話中らしい。

「……そうそう、その件は――」

 スピーカー越しに響く会話――漏れ聞こえてくる内容から、仕事の話かもしれない。

 邪魔をしてはいけないと考え、澪は足音を立てないようにそっと廊下を歩き、寝室へ向かった。そして、紙袋をベッドの上に置き、クローゼットを開ける。

 ワンピースに合わせるなら、ネイビーのスーツが似合うだろうか。それとも、あのグレーのスーツのほうが並んだとき映えるだろうか。

 そんなことを思いつつ、ハンガーに掛かったスーツへ手を伸ばしたそのときだった。手前にかけてあるジャケットのポケットから、一枚の紙が音もなく床へ滑り落ちた。

 白い紙切れは、澪の足元で音もなく止まる。何気なく手を伸ばした彼女は、まだ知らなかった。この一枚の紙が、自分の人生を静かに、しかし決定的に変えてしまうことを。

 床に落ちた紙を拾い上げた澪は、印字された文字に視線を落とした。

 それは地方銀行の振込票で、三年前の日付だった。振込金額、五千万円。送り主は御子柴智也。受取人は――白石琴葉。

「……え?」

 息が止まった。その名前は、大学時代の後輩だった。裕福な家庭に生まれ、成績優秀で卒業後は海外に渡ったと聞いていた。

(どうして智也さんが、彼女に五千万円も送金したの? しかも、この日付は――)

 指先が小さく震える。

 三年前、それは忘れることのできない日だった。養父が突然倒れ、病院から「今夜が峠です」と言われた夜、澪は藁にもすがる思いで智也に電話をかけた。

『智也さんお願い……百万円だけ貸して』

 返ってきたのは、申し訳なさそうな声と五十万円だった。

『あぁ、悪い。実は会社を立ち上げたばかりで、資金繰りがかなり厳しいんだ。これしか出せない。本当にごめん』

 起業したばかりだから仕方ない。そう信じていた。むしろ、あの五十万円も無理をして工面してくれたのだと思った。だからこそ、彼に感謝した。

 それでも養父を救えなかったことだけが、ずっと心残りだった。

「……どうして」

 掠れた声が漏れ出たそのとき、リビングから智也の笑い声が聞こえてきた。電話はまだ続いている。

 澪は振込票をポケットに戻そうとして、指が止まった。耳が自然と、声の方へ向く。

『そういえば、白石が帰国したんだろ?』

『ああ』

『じゃあどうする? 奥さん、いるじゃないか』

 軽い調子の問いかけ。友人はきっと、笑いながら話しているのだろう。

 澪は苦笑する。

(――どうするも何も、そんなの答えは決まっている)

『お前が奥さんに優しいのは、業界でも有名だからな』

 友人の言葉に、澪は少し照れくさくなった。智也はそんなふうに見られていたのか。自分だけがそう感じていたわけではないのだと、頬が自然と緩んだ。

 嬉しい。

 そう思った、次の瞬間だった。

『彼女は、ただ責任上の存在だ』

 澪の心臓が、大きく跳ねた。

『俺は男勝りな宮坂澪なんて、最初から好きじゃない』

 智也の声は、驚くほど冷たかった。それは温度のない口調――仕事の話をするときとも違う。澪が知らない男の声だった。

『俺が好きなのは、琴葉みたいな穢れのない女だからさ』

 頭の中が真っ白になる。

「マジか、それ!」と笑いながら言った友人が、言葉を続ける。

『じゃあ離婚するのか?』

(智也さん、お願い。違うと言って。冗談だと言って――)

 澪は両手の拳を握りしめながら、祈るような気持ちで息を潜めた。

 短い沈黙が流れた後、智也が静かに口を開いた。

『いや、今のところはしない』

 澪はわずかに息を吐いた。けれど、その安堵は一瞬で砕け散る。

『好きじゃないが、傷つけるつもりもない』

 その一言は、刃物よりも鋭く胸へ突き刺さった。

 好きではない。でも離婚もしない――それが智也にとって、自分という存在価値なのだ。

 耳鳴りがして、不意に足元が揺れた。

 澪は振込票を元のポケットにそっと戻し、クローゼットの扉を静かに閉める。

 この部屋に、もう一秒もいたくなかった。

 ベッドの上ではアイボリーのワンピースが、さっきまでの幸せをそのままに、静かに残されていた。

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  • 妻の100万円の願いは拒否、初恋相手には5000万円⁉ 離婚後の天才妻は御曹司に溺愛される   第四十二章 明らかになった代償

    *** 研究所でも、調査結果が共有された。 研究員の松本によるデータの持ち出しと、その情報が外部へ流れた経路。様々なルーツを辿って御子柴智也に渡り、入札で利用された数字との一致。 これまで積み重ねられてきた記録がつながり、情報漏洩事件の全容が、ようやく明らかになった。 澪は報告を聞き終えると、静かに資料を閉じた。そばにいた担当者は、安堵のため息を吐いてから口を開く。「これで、流出した情報の経路はすべて特定できたんですね」 「ええ。もちろん、再発防止のための対応は必要だけれど、今回の件については、ようやく全体像が見えたわ」 担当者の言葉に、澪は小さく頷いた。 長い調査だった。 自分の研究が不正に持ち出され、関係のない会社の入札にまで利用された。研究所の人間として、決して看過できることではなかった。 けれど調査を終えた今、澪の中に残っているのは、怒りだけではない。 自分が守るべきものは何か。 何を明らかにし、何を次につなげるべきなのか。 その答えを、改めて考える機会にもなった。「今回の件を踏まえて、データの管理体制を見直します。アクセス権限の再設定に加えて、外部への情報共有手順も変更する予定です」 「そうですね。大切なデータを扱う以上、同じことを繰り返さない仕組みが必要だと思います」 澪は、研究所の担当者と今後の対策について確認した。 特定の人間の注意だけに頼るのではなく、誰が扱っても、適切な手順を踏まなければ重要な情報を持ち出せないようにする。 今回の事件を、ただの失敗で終わらせないために。 それもまた、研究に携わる者として必要な仕事だった。 *** 数日後、智也は会社としての対応を進めていた。 情報の入手経路を確認し、入札における判断の経緯を整理する。関係者への聞き取りを行い、必要な説明と再発防止策を検討する。 会社を守るためにも、問題を曖昧にしたまま終わらせることはできなかった。 そして琴葉の関与についても、事実に基づいて整理する必要があった。「私は、智也さんに伝えていません。本当に、それだけなんです」 琴葉は、何度も同じ説明を繰り返した。「山下さんから頼まれただけで、情報が不正に持ち出されたなんて知りませんでした」 「お前が直接、情報を渡していないことは分かっている。俺は聞いていないからな」 智也は

  • 妻の100万円の願いは拒否、初恋相手には5000万円⁉ 離婚後の天才妻は御曹司に溺愛される   第四十一章 消せない記録2

    智也は、目の前の彼女を見た。 琴葉は、納得できないという顔で彼を見返している。「……智也さん。私のこと、信じてくれないんですか?」 その問いかけに、いつもの甘えるような響きはなかった。それは責めるような、追い詰められた声だった。 以前なら彼女の不安を取り除くために、何かしらの言葉をかけていたかもしれない。 大丈夫だと。お前を信じていると。 けれど、今はその言葉が出てこなかった。 信じるかどうかを決める前に、確認しなければならないことがある。それを怠った結果、会社は今、重大な問題に直面している。 そして自分は確かな根拠がないまま、琴葉の言葉を受け入れようとしていた。「信じる、信じないの話にするな。今は事実を確認している」 「……それって、私を疑っているということですよね?」 「疑うために調べているんじゃない。何があったのかを明らかにするためだ」 自分の口から出た言葉に、智也はまた澪の姿を思い出した。 彼女も同じように言っていた。 誰かを疑うためではなく、事実を明らかにするため。感情で決めつけず、確認できたことだけを積み重ねていく。 以前の澪なら智也が困っていれば、まず話を聞いてくれた。彼の立場を考え、どうすれば問題を解決できるか、一緒になって考えてくれた。 今は違う。 彼女は、必要以上に彼のために動かない。 自分の仕事と、会社が負うべき責任を切り分けていた。その距離が、今になって少しずつ理解できる気がした。「智也さん……私、本当に、こんなことになるとは思っていなかったんです」 琴葉の声が、少し弱くなった。「山下さんから言われた数字を伝えようとしただけで、会社に迷惑をかけるつもりなんてなかった。ただ、智也さんの役に立ちたかったんです」 役に立ちたかった。 その言葉を聞いても、智也の気持ちは動かなかった。 彼女が何を考えていたのかは、これから確認する必要がある。善意だったのか、打算があったのか、それとも別の事情があったのか。 今の段階では、どれも断定できない。 ただ一つ、はっきりしていることがあった。気持ちがどうであれ、結果は消えない。「琴葉、このメッセージの履歴は、絶対に消すな。山下とのやり取りも、今回の情報に関係する連絡も、すべて保存しておけ」 「……分かりました」 「会社の調査担当から連絡があったら、見せ

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